「希望の翼」 ♯変心

『さてと・・・アルタイル、話があるんだ』
ベガが見えなくなってしまったところで、デネブは口を開いた。どうやらふざけている様子ではなさそうだ。
『話・・・?』
2人は再び歩き始める。他校の生徒であるデネブにとっては初めての道でそわそわしながら歩いているが、毎日通っている筈のアルタイルにとってもなんだか新鮮な景色に思えた。
『(ああ、そうか・・・)』
アルタイルは鞄にソッと手を置く。中に入っているのは教科書やノートだけではなく、魔法についての書物だ。
『(いつも、下を向いていたからだな・・・・・・)』
この三か月間、アルタイルは行きも帰りも手元の本に意識を集中させていた。周りの音も、気配も、景色も彼の目には映らなかった。
前を見ながら帰るのは初めてだ。今考えてみれば、よく今まで迷子や事故に遭わず無事に家に帰れたものだ。
『・・・ぇ、ねぇちょっと、アルタイル聞いてる?』
『・・・・・・え、あ、悪ィ』
どうやらデネブはボーっとしている自分に何度も呼びかけていたようだ。考え事をすると周りが気にならなくなる性格なんだな、俺は・・・。アルタイルは頭痛した時のように眉間に手を当てる。
『アルタイル、僕は星の戦士になったら星団を立ち上げるよ!』
『星団?』
急に個人の夢を語られてもどう返せばよいのかわからないのだが、聞くだけ聞いておこう。
星団とは個人の戦士が経営するもので、その団内の規則は星の戦士としてのルールを破らない限りは立ち上げ人の戦士が自由に制定することができる。立ち上げ人以外の上からの指定があった人物でも規則を変えることもできる。
デネブが立ち上げる星団・・・かなり自由になりそうな気がするが・・・・・・。
『まずは団内の格差を失くすよ。敬語とかを使うと何となく固い雰囲気になっちゃうからね。どんな新人も、先輩団員はもちろん団長にも親しく接することができるようにね。』
『なるほどな・・・・・・』
「団内が固い雰囲気になってしまう」という理由もあるが、デネブはもともと格差というものがあまり好きではない。"全ての生き物は平等でもともと格差なんて存在しない"という言葉がデネブの中に常に存在している。初対面の人にも、目上の人にも敬語を使ったことはない。生徒会長という役職を背負いながらも、彼は"自分は他の人よりは偉くて権力がある"などとは考えていない。
自分は常に対人と対等でいなくてはならない。彼はそれをこれからも生涯貫き通すことだろう。
アルタイルはそういう面でもデネブのことを心の底から信頼し、尊敬していた。もちろんそれが正しいと思う人も、間違っていると思ういる人もいるだろうし、アルタイルにも正直のところわからない。
『けどよ、それじゃあ団内が荒れるんじゃねェか?例えば、自分より弱い先輩戦士をいじめたりよ。』
『だから、そういうことをしない人だけを招き入れるよ』
『そんなのいつでも猫被れるじゃねェか。入るときは良い人の振りをしちまえば簡単に入れちまうぜ?』
性格にに裏表がある人だっている。そんな人を一目で判断するのは難しい。
『そういう人って言うのは大抵、頭が悪いか強くなることしか頭にない人だけだよ。だから入団試験を設ける。かなり厳しいものをね・・・・・・』
そういう人を判別するための試験・・・きっとそれほどのことをやるのだろう・・・。


『まぁ将来のことを語るのは良いことだけどよ、今は現在に集中することにしようぜ?』
デネブの夢を語っているうちに、2人は家の前まで来ていた。アルタイルにとっては帰りにこんなに誰かと話したのは初めてだ。舌が疲れてきてしまった。
『お、今まで本に集中していたアルタイルが言うようになったね?これもベガのおかげかな?』
『何でそこでベガの名前が出てくるんだよ・・・?』
2人は玄関を上がると二階に上がっていく。とりあえず、荷物を置かなければ。
『・・・もしかして全部僕のおかげだって思ってる?それは違うよ、ベガが君に関わってくれたおかげで僕は図書館で君にあんなことが言えたんだよ?後でちゃんとお礼言っといたほうがいいよ』
『・・・・・・言ったよ、お礼は』
直後にデネブが半目になった。疑っている眼だ。
『・・・どーせ「サンキュー」って言ったんでしょ?』
『・・・(何故バレた!?)』
アルタイルにデネブのセリフが突き刺さる。見事なまでにデネブの言ったことは的中していた。
『君が頭を下げて「ありがとう」って言うはずないもん!絶対「サンキュー」とか「Thank you」とかそんなこと言ったに決まってるよ!』
『そんな発音良く言わねェよ!わかったよ、後でちゃんと言っとくから!!』
2人はガミガミ言い合いながら階段を降りてリビングに向かった。晩御飯のいい匂いが漂ってくる。
この日、アルタイルは間違いなく変わった。そして、この日を境にどんどん立派に変わっていくことだろう。




・・・続く!!
まーだまーだ続くよ、過去編の過去編!



答案が返ってきたよ、今のところ赤点は無し。ヤッタネ!!(^ω^)/