「無翼の天使」 ♯別レ

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ポルックスはベテル・ギウスとソルの会話の内容を理解できていなかったが、その内容に違和感を覚えた。
先程、ベテルは会話の中でこう言った。
『やったことないので出来るかどうかの確証はありませんね。』
そしてソルはこう言った。
『よくわかんねぇんだよ。』
つまり、


その"召喚石(サモンストーン)"とやらで自分たちを下界に召喚するとき、何が起こるかわからないのだ。


「ちょ、ちょっと待ってください。なんとなーく話の流れが掴めてきましたけど、二人はこの召喚方法について何も知らないんですね?」
「うん」
ポルックスの問いにベテルが答える。
「何かが起こるかもしれないとか、二人ともわからないんですね?」
「そぉだな、知らん。もしかしたら"それ"でお前ら二人を下界に召喚したとき、あるいはするとき、何か体に障害ができるかもしれない。」
ポルックスの更なる問いにソルが平然と答える。どうやらその非常事態について危惧はしているようだ。
「えぇぇぇぇ、そうなんですか!!?」
"召喚石(サモンストーン)"を持つ当の本人が一番驚いていた。ああ、つまりは二人ともわからないのね・・・。
なんということだ。何が起こるかもわからないのに、それに挑まなければ下界に行けないとは・・・。
「最初に体験する人ってのは、死を覚悟しなきゃいけない時もあるんだぞ?例えば、大昔、人類の中で初めて魚を食べた人。毒があるかもしれない、けど確認しようがない。他の動物に食べさせてみるという手もあるが、それを食べない動物は単に嫌いなだけかもしれない。自分が食べるしか毒の有無を確認する手は無い。毒で死んでしまうかもしれない、またはおいしいかもしれない。お前たちはそれを体験するだけだ。」
ソルが平然と恐ろしいことを言う。生きるか死ぬかなんて確率はいつも五分五分じゃないか。ポルックスの顔が青ざめても、当然扉の奥にいるソルはそれに気づかず続ける。
「下界の召喚に成功した時は、何事も無く生き延びるかもしれない。だが、失敗したときは体が原子レベルまで崩壊し、空間と一体化してしまうかもしれない。だが・・・」
「だが、やるしかない・・・そうですよね、ソル様?」
ベテルが引き継ぐ。ポルックスがベテルを見ると、一番驚いていたはずのベテルの顔は、いつの間にかあの時の、黒い剣士の姿をしたダークマターと戦った時の目になっていた。
ポルックスは遠目でしかその目を見ていないが、いざ近くで見ると、こっちも勇気が湧いてくる。恐怖を忘れさせてくれる。死の恐怖さえ、笑えてくる。
「うん・・・そうだな」
「ああ・・・そうだ」
ポルックスとソルの声が被った。



・・・とはいえ、
「もしかしたら噴水の水が残ってるかもしれないので、確認してきます。少しでも安全な方が良いですし・・・」
オイオイ・・・とポルックスがズッコケそうになる。なんだかんだで恐怖が無くなるわけではないので、ベテルはやや弱気である。
まぁ、それはポルックスも同感だ。少しでも安全な方が良いに決まっている。
「・・・そうか、まぁ"召喚石大作戦"は奥の手だしな」
「(何ですかその"召喚石大作戦"って・・・?いつ決まったんですかその名前は・・・?しかも『大作戦』ってほど大規模じゃないですよ・・・?)」
さすがに上司に言葉に出してツッコむなんて失礼なことはできないので、ポルックスは心の中でソルにツッコんだ。
「何ですかその"召喚石大作戦"って・・・?いつ決まったんですかその名前は・・・?しかも『大作戦』ってほど大規模じゃないですよ・・・?」
ベテルがポルックスの心の中をのぞいたかのように一字一句狂いなくソルに言った。こいつ、ただ者じゃない・・・。
「なんとなくだ。気にすんな」
ソルはあっさりそれを流した。失礼とか感じないらしい。
なんという損をしたんだ、とポルックスはする必要のない後悔をした。



「いいか、これはもしかしたら俺の最後の言葉になるかもしれないから、よぉく聞いとけ」
ソルが真剣な声で二人に呼びかけた。ベテルとポルックスはこれから噴水を見に行くついでにアークを捜し、プレアデス星団のみんなの様子を見に行く。そして、すべてが済んだら神殿に戻らず下界に行くのだ。
「ベテル、お前はその傷だ、あまり無茶すんなよ。傷が完治するまで極力戦闘は避けろ。ようは、今日はもう戦うな。言いにくいが、たとえ仲間が戦っていても協力はするな。いいな?」
「・・・・・・はい!」
ベテルは戸惑いつつもしっかりと返事をした。
「それと・・・強くなりたいんならもっと強気で男らしくしろ、アークみたいにな。ああ、デネブの野郎は例外な」
「・・・・・・はい゛っ」
ベテルの目から大粒の涙がポロポロと流れ始めた。ソルの最後になるかもしれない言葉は一つ一つが重く、どこか父親のようだった。怒ったり、驚いたり、笑ったり・・・感情豊かなやつだな、とポルックスは思った。自分の気持ちにまっすぐなベテルが、どこか羨ましい。
ポルックス
ソルの声が聞こえてきた。
「・・・はい」
「ベテルが無茶しようとしたら止めてやってくれ。あぁ、これベテルにも言ったような気がするな・・・カストルについては、大丈夫だ。あいつは強い、やられはしないさ。だから、この10年間であいつのことを抜かしてやれ。情報処理、頑張れよ・・・!!」
本当に、冗談抜きで、最後の言葉らしかった。意識せずに涙が出てきた。
最後であってほしくない。10年後、絶対に生きていてほしい。ソル様だけじゃなく、星の戦士も、天界に住んでいる全ての人も、みんなみんな生きていてほしい。ベテルとポルックスは、ただただ信じることしかできない。
ポルックスは涙をこらえた。今にも目の下を流れていきそうなくらいしょっぱい水が目に溜まっていた。
「はい・・・・・・!!」



ベテルとポルックスは、名残惜しみながら、高さ20mもある扉から離れ、神殿から飛び立った。





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ダークゼロは時計をやたらに気にしていた。
フェイトは少し離れたところで手下のダークマターにデネブとアルタイル、カストルを預けていた。
「噴水広場に隠しておけ、私も後で行く」
手下のダークマターが噴水広場の方向に飛んでいくと、ダークゼロはフェイトに近づいて行った。
「フェイト様、一つよろしいですか?」
「何だい・・・?」
「先程から時間を数えているのですが・・・わたくしが1分間数えても、あそこの時計は30秒も進んでいません。一体どういうことでしょうか?」
「・・・あぁ、それな。それは"俺"の力によるもんだ。」
フェイトの口調が変わり、一人称も激変した。
「フェイト様のお力なのですか?」
ダークゼロはフェイトの口調の変化に気づいたが、あまり気にせず続けた。
「あぁ・・・『時間覚麻痺(タイマーセレクト)』といってな、ちょっとややこしい能力だ」
「ややこしい・・・?」
「『楽しい』と思う時間って早く過ぎるように感じるだろ?そして『つまらない』と思う時間は遅く過ぎるように感じるわけだ。この能力はそれをちょいと応用したもんなんで、『"時間"の感"覚"を"麻痺"させる』んだ。まぁ、詳しくは追々説明するすっから、さっさと噴水広場に行こうぜ。おっと、その前にプレアデス星団を見に行くか!」
フェイトの未知の能力・・・ダークゼロの疑問は増えていくばかりである。





・・・続く!!
感動するかどうかは個人個人の感覚によりますw
まぁ感動するほどのものじゃないけど、ベタすぎて呆れるほどだけどww
やっぱり時間のずれ(?)はフェイトによるものだった。さすがボス補正、何でもありかww


というわけ(?)でフェイトさん描きますた。


というわけ(?)でリンちゃん描きますた。