『モモ』其の漆 「雉岡、閃く」

「よし、行け!」
「は、離さないでよ!?」
隼が自転車の荷台を持ち、モモはペダルをこぎ始めた。色々な練習を試してみたが、結局これが一番やりやすくて簡単なのかもしれない。
「そう言われても離しますわよ・・・?」
「嘘!?」
「それ言っちゃ駄目だろ!」
ガシャーン、と自転車がまたも地面を叩き、その度にタカは思わず目を瞑ってしまう。モモが転んでしまうことが可哀想で見たくないというのもあるが、自分の自転車が惨めに汚れ傷ついていく次第が見えてしまうのだ・・・・・・しかも目の前で。彼女達に悪気が無いということはわかっているのだが、端から見れば自転車を傷つけられて苛められている光景に見えなくもない。
「『どうせ離す』ってネタバレしたらダメだろ、普通」
「離すタイミングなんてわかりませんわ」
「というか正直これキツイぞ?子供相手ならまだしも・・・」
「誰が重いって!?」
「言ってねェよ!」
ああ言えばこう言い、そう言えばああ言う。五月は思った・・・正直言って今すぐ止めたい、というかむしろ諦めてくれないでしょうか。そしてタカはこう思う・・・お願いだから今すぐ自転車を誰か他のものに換えて、もう見てられない!
モモと五月からすれば早くスーパー『鬼ヶ鳥』に行きたいのだが、あれからモモの自転車テクニック・・・称して『チャリテク』は少しも上達していない気がする・・・これでは時間が勿体無い。
「・・・もうこれしかない」
苛め(?)られているマイ自転車、そして早く『鬼ヶ鳥』に行きたいモモと五月・・・この窮地から脱するにはもはやこれしか手は無い。
「川本さん、犬井君、猿江さん・・・今すぐ『鬼ヶ鳥』に行こう!」
「えっ?」
「あっ?」
「何ですって?」
タカの言葉に一同は騒然とする。今すぐと言われても・・・モモはまだ自転車には乗れないのだ、乗れなければモモを置いていく羽目になる。
猿江さんは走れるよね?」
「え、えぇ・・・長距離は割と得意ですわ」
五月の今日の靴は運よく運動靴・・・走れなくもない。
「よし・・・自転車を上にあげよう、僕が自転車漕ぐから」
「はぁ?モモが乗らないとモモは足遅いんだぞ?」
「"川本さんが僕の後ろの荷台に座ればいい"んだよ、何も川本さんが運転しなくてもいいんじゃないかな?」
「・・・・・・」
あぁ〜・・・その手があったか。タカ以外の三人はポンと手に手を置き、そう言いそうな顔で納得した。



ボロボロに汚れた自転車を道に戻し、タカが乗る。
「さぁ、川本さん」
「・・・二人乗りって大丈夫なの?」
二人乗りは立派な道路交通法違反である。見つかれば色々指導される。しかし、結局は見つからなければいいだけの話・・・けど良い子のみんなはマネしないでね!
「『鬼ヶ鳥』付近は交番とか無いから大丈夫だよ。それに一回目なら見つかっても注意されるだけだから・・・」
「雉岡君て意外とワルなんだね」
そう言いながらモモは荷台に座り、タカの腰に手を回した。
「犬は長距離ちゃんと走れますの?」
準備運動をしながら五月は隼に訊く。
「・・・短距離なら得意なんだけどな、長距離はあんまり」
「大丈夫だよ、速度は合わせるから」
「そっか・・・それなら何とかなるかもな」
隼は靴ひもをきつく縛り、準備完了。
猿江さん、バッグ籠に入れる?」
「あら、ありがとう。お願いしますわ」
肩にかけていたバッグを自転車の籠に入れ、五月も準備完了。
冬の日にマラソンも中々乙なものだが私服で4キロマラソンはキツイだろう、しかしやらねばならない・・・川本モモ、犬井隼、猿江五月、雉岡タカの四人は意を決して進み始めた。
・・・内一人、モモは荷台に座っているだけだが。



続く・・・
ようやく動いた四人、次回からマラソン編(?)ですw
二人乗り、良い子はマネしないでね。良い子はマネしないでね。
大事なことなので二回言いましたw