「希望の翼」 ♯アノ景色

団長になると、星団内の規則などを自由に制定し直すことが可能になる。最終的に許可を出すのは『星の勇者十二隊』で、星の戦士としての威厳を保ち、なおかつ彼らが納得のいくような内容でないと決定はできないが・・・・・・。
「・・・つうわけで、これからのプレアデス星団の方針とかを決めてもらいたい。なるべく早めに頼む」
ソルと新プレアデス星団長のベテル・ギウスは神殿内の廊下を歩いていた。つい先ほど団長の引き継ぎの手続きを終えたところだ。
「方針・・・ですか。星団の目標とかですか?」
「ああ、まぁ徐々に変えていくのも良し、個人個人で決めるのも良しだ」



2人は会議室前で別れ、ソルは会議室の中へ、ベテルは寮棟へ向かった。
ベテルは自室に入り、とりあえず一息つく。部屋は六畳一間でかなり狭いが、普段は寝るぐらいしか用が無いので大した家具も必要ない。部屋の唯一の窓の上には『一日一善』という文字が書かれた額が飾られていた。
もう昼も終わる・・・。
「しまった、もうすぐ食堂閉まっちまう!」
神殿の食堂は朝は午前5時〜午前9時迄。昼は午後12時〜午後2時迄。夜は午後6時〜午後8時迄と律儀に決まっている。これを逃したら夕食まで我慢するか外で食べてくるしかない。外で食べるよりは食堂の方が値段は安いし量が多いのだ。
ベテルは来た道を戻り、食堂に向かった。もうすぐ閉店だというのに結構人で溢れている。
「うぅん・・・こりゃちょっとムズいな・・・」
「お、ベテルじゃねェか。久しいな!」
その声は列の前の方から聞こえた。声の主は蠍の尻尾を生やしている。



「いやぁ、まさかお前が団長になるなんてなぁ・・・」
シャウラはうどん、ベテルはそばをすすりながら話し合っていた。
「俺も驚いてますよ。人生何があるかわからないもんっすね」
「まったくだ、年は全く違うのに俺と同じ立場になるとはな・・・ゴクン・・・で、今は何してんだ?」
シャウラはうどんをズズズズと口に流していく。このカツオ出汁が何とも言えない風味を醸し出している。ベテルはそばを汁に浸けてスルスルとゆっくり口に入れていく。
「ソル様に『これからのプレアデス星団の方針とかを決めてもらいたい』って言われまして・・・ズズ・・・正直迷ってるところです」
「あぁ〜、俺もそこらへん迷ったな〜・・・すまんがそこだけは力になれんわ、他のことならなんでも協力してやんよ」
「ありがとうございます。やっぱりここは俺が独断で決めないと駄目ですよね・・・?」
「それでも良いとは思うが、団員のことをきちんと頭に入れて考えたほうがいいぞ」
シャウラは席を立ち、食器を持って行ってしまった。ベテルのそばはまだ少し残っている。
「ちょ、シャウラさん早っ・・・!」
「お前が遅いだけだろ・・・早くしないと追い出されるぞ?」
「うへ・・・気を付けます・・・」
ベテルは半分やけくそになりながら残りのそばを平らげた。



ベテルは神殿を出、第三島の『プレアデス星団施設』に来た。ここはいわゆるプレアデス星団の事務所である。今日は一日中休みなので中には誰もいないはず・・・ベテルはソルから渡された星団施設の鍵を入口に差し込む。カコン、と鍵が開くと、ドアノブに手をかけた。中は十年前・・・いや二十年前のあの時からまったく変わっていなかった。
まだ入ってばかりだったベテルは当時の星団内の様子に圧倒された。あの時の景色が頭の中にイメージされる。
『副団長、この書類の確認頼む。』
『はいはい、んじゃアルデ、この書類もまとめといてくれ』
『うえ、マジか』
『アルタイル、デネブが寝てる!』
『デネブてめぇ、起きろ!』
『んぇ〜・・・あと五時間・・・』
『長いわ!!』
『フォー・マルハウト戻りました〜。次の仕事はベガがアップルスター、アルデ・バランがゴーカイスターね』
『え、ちょ・・・まだ書類整理が・・・』
『早く手続きして来い』
『んじゃいってきます。アルタイル、デネブ起こしといて』
『馬鹿兄!!』
『バ〜ロ〜、あともうすぐ五分前に起こさせてよ・・・』
『言ってる意味がわからん!!』
・・・なーんて、忙しそうに仕事しながらも笑顔と笑いが絶えない仕事場だった。だが、あれほど活気に溢れていたプレアデス星団も今や三人しか団員がいない。
「・・・もう一度」
あの光景をまた見たい・・・そして、あの輪に入ってみんなと笑いたい。
「・・・・・・あぁそうだな、これでいこう」



それからベテルは神殿で『プレアデス星団の方針』についてソルの承諾を貰い、残りの団員・・・ポルックスとアンタレスを事務所前に集めた。
「ベテル、今日は一日休みだぞ・・・?」
ポルックスは眠たそうに眼をこすっている。
「黙らっしゃい、団長命令だ」
「うわいきなり職権濫用かよ・・・」
アンタレスは呆れる。だが、二人ともこの瞬間を待っていたかのような顔をしている。
プレアデス星団のこれからの方針を言っておく。これからはこれを主な目的とし、守ってもらいたい・・・」
ベテルは一息ためる。



「規則については特に変更はしない。だが、俺は入ったばかりのあのプレアデス星団を取り戻したい。デネブ団長も、アルタイル副団長もベガも・・・みんながいるあのプレアデス星団をまた見たい。だから、俺たちはこれから『いなくなったプレアデス星団の捜索』を主な目的としていきたい・・・!」



いなくなったデネブやアルタイル達プレアデス星団を捜す・・・これがこれからのプレアデス星団の目的。
アンタレスはまたまた呆れたような顔をする。
「まったく・・・宇宙はクソ広いぞ?そんな中捜しに行くってのかい?」
ベテルの目に迷いはない。
「だからこそやり遂げなきゃいけねェんだ、俺たちはまだプレアデス星団じゃない・・・みんなが揃っていないとプレアデス星団じゃない・・・みんなが揃って、それで初めてプレアデス星団に成れるんだ!!」
ソルにもそんなことを言って納得してもらった。
あの光景をもう一度見るために、彼らはこれから動き出すのだ。




・・・続く!!
あの時は忙しくも騒がしく、笑顔の絶えない明るい事務所だった・・・それが『プレアデス星団』だった。
しかし、団員が三人しかいない自分達はプレアデス星団ではない・・・。全員がそろって初めてプレアデス星団なのだ。
ベテルの決意・・・それがやがて、彼らに奇跡をもたらすのだった・・・!!


今日は自室の掃除をしてました・・・。
出てくるのは黒歴史ばかり、一体何の意図があって作ったのだろうか・・・ってものが多かったですww