「希望の翼」 ♯"ベタ"ナ決意

激しく格闘しているアンタレスとベテル・ギウスを、ソルとレグルスは静かに見ていた。
アンタレスプレアデス星団が結成した直後からいる団員で、プレアデス星団の結成を間近で見た唯一の人物と言ってもいい。
その実力は星団の中でも指折りで、入団当時から周りにかなり注目されていた。
しかし、ベテルはそんなアンタレスとほぼ互角に戦っていた。しかも、ベテルの方が押している。その理由の一つには、強大な能力を持っているということもある。
異世界想造(アナザークリエイト)』・・・自身が想像したものを異世界に創りだすというものだ。そして創造した物を自分のいる世界に呼び出す・・・すなわち召喚するための道具である星具、『召喚石(サモンストーン)』。
この二つが揃えば、ベテルは強大な力を得ることができる。
アンタレスは拳を構え、地面を蹴る。その先にいるのはベテル・・・パンチの射程内に入るとアンタレスは拳に思い切り力を込め、振り被った。しかし、そのパンチはベテルには届かなかった、ベテルが避けたわけではない。ベテルの目の前の空中に突如として長方形の板のような壁が現れたのだ。アンタレスのパンチはその壁に当たり、脆かったのか壁にひびが入る。
「っ!!」
アンタレスは拳の痛みをこらえ、再度力を込める。この邪魔な壁をぶち壊すためだ。壁は砕け、ベテルの顔が見えた。
しかし、壁のおかげでアンタレスのパンチの威力は弱まっていた。しかも体のバランスも崩れ、ベテルに向かっていくにはもう一度地面を蹴る必要があった。
ベテルはそのわずかな瞬間を待っていた。
「隙あり!!」
ベテルの全力のパンチがアンタレスの体に勢いよく入る。アンタレスの体が向かっていった方向とは逆に吹っ飛ぶがアンタレスは宙返りをし、足を地面に叩きつけた。足と地面との間に発生する摩擦のおかげで吹っ飛ぶスピードが落ちる。しかし慣性が付きすぎているのか中々止まらない。
やっと止まった頃にはアンタレスとベテルの距離は30mも離れていた。
「・・・つは!てめベテル、一体何の小細工しやがったんだ!?」
アンタレスは汗をぬぐいながら体制を立て直す。
「いやいや、別に小細工なんかしてねぇよ。森の中で暮らしていたらいつの間にか力が付いちまったみたいだな。」
「(いやいやいや、ふつー森で暮らしていただけでんな力は付かねェよ。一体何して過ごしてたんだ・・・!?)」
アンタレスの全身から冷や汗が流れる。後輩に抜かされることほど悔しいものは無い。まぁ成長してくれたのは喜ばしいことだが・・・。
「森の中・・・すなわち自然の中で二人は暮らしていたんだ・・・そりゃそんだけの力や動体視力も付くよ」
格闘を見学していたアースがふとそう言った。ソルとムーンとレグルスはしばしそっちに耳を傾ける。
「自然から学べるものは多いからね・・・食物連鎖、弱肉強食、自然のありがたみ・・・そして守るべきものも。多分だけど、ベテル君は自然から食料を調達するためにかなりの知識と技術を身に付けたはずだよ。獲物の生態や罠の仕組みや作り方、捕まえ方。そしてその獲物を捕まえるためにはその獲物の素早い動きも見切れなきゃいけない。そのおかげでベテル君の動体視力、深視力、観察力、反射神経などが研ぎ澄まされたんじゃないかな?」
「アース様の言う通り、かなりのことを難易度難しくして挑んだな。高い木の実を採るときも翼を使わなかったし、でかい魚とかを捕まえるために片腕使わず釣竿で釣ったり・・・熊と一対一で武器なしで格闘したこともあったっけか?」
ベテルがさらりととんでもないことを言う。とにかく、強くなるために森の中でかなり工夫して暮らしていたようだ。アンタレスは唖然としたが同時に納得もした。しかし、だからといって負けるわけにはいかない。
「(こちとら先輩としての威厳つうのがかかってんだよ・・・!)」
すると、ベテルの方向から一本の剣が投げられた。攻撃されたわけではない、ベテルから渡されたのだ。ベテルも一本、剣を構え、こちらにクイクイと手を振っている・・・・・・明らかな挑発だ。
「・・・・・・(怒)!!」
アンタレスはそんな典型的な挑発に乗ってしまった。地面に突き刺さった剣を手に持ち、ベテルとの間合いを取る。
少し様子を見たいところだがそんなことをしていては相手に先手を仕掛けられる可能性も出てくる。
「(先手必勝・・・一気に攻める・・・・・・!!)」
アンタレスはクネクネと走り、遠回りしながらゆっくりと確実にベテルに近づいていく。剣の扱い方は昔、育成所で一通り学んだ。
アンタレスは剣を地面に着け、引きずりながらベテルの周りを回っていた。ギギギギギギギと剣が削れる音が鳴り響き、その勢いで砂煙が舞う。砂煙はベテルを飲み込み、ベテルの視界を奪った。
アンタレスは静かにベテルの背後を取る。そして拳を振り込んだ。さすがに剣で攻撃するわけにはいかない。
しかし、ベテルはアンタレスのパンチを受け流し、剣を振る。アンタレスはとっさに剣で受けた。キィンという金属音が鳴り、少しだけ火花が散る。
アンタレスは反撃をくらわないうちにベテルと距離を取る。
「森の中って危険でいっぱいなんだぜ?凶暴な肉食獣とかいるからな。だから俺たちは生きるために潜んでいる相手を探る術を身に付けた。かすかな足音、気配も感知できるようになったぜ」
ベテルが得意げに話した。砂煙が徐々に引いていく。
「俺はあの時誓ったんだ。『強く生きよう。そして、強くなる』ってな。だから強くなることに貪欲になった。必死に強くなることを望んだ。」
「けどよ、強くなることが全てじゃねぇぞ。強さだけを求める者は、やがてそのために他の物を捨てようとする。大切なものをだ。」
アンタレスはベテルの言葉にケチをつける。強さが全てじゃないのは誰しもが知っていることのはずだ。当然、ベテルだってわかっているはず。
「そうだ、俺は森の中で過ごしているうちに学んだんだ。『森は素晴らしい、自然は美しい』って・・・だから俺は改めて誓った。『この世の自然も、大切な仲間も守り通すんだ』と!」

それが森の中で10年間過ごして見つけたベテルの答え。ソルとレグルスはそう思った。
「ベタだな・・・」
「ああ、ベタだ」
2人はそうともそう思った。
「だが、それでもいい。それがお前の答えで、決意なら・・・な」
ソルはフッと微笑む。
「そこまで!試験は終了だ。」



・・・続く!!
自然って時には怖いけど、時には心を動かす何かをくれるものなんすよね。
ベテルはもう野生児って呼んでも構わないんじゃないだろうかw



今日は硬式に行ってきますたw
久々に行ったから結構鈍ってましたorz