「希望の翼」 ♯戦イト怒号

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景色は薄暗かった。空を覆っているのは灰色の雲・・・雨は降っていない。天界と大して変わらない景色に、ベガは少しだけ安心できた。ここは標高の高い岩山の中腹のようだ。木々は無く、ごつごつとした岩が所どころに埋まっている。
近くを探索したいところだが、あまりここから離れるわけにはいかない。岩山とはいえ、天候が変わりやすいことに変わりは無い。周辺に集落や村がある気配はないし、木々が無いことから食料を調達するのは難しそうだ。アルタイルを連れて山を下りるという手もあるが、天界での戦いのせいでそんなに体力がない。
「(しばらくここで暮らすしかなさそうね・・・・・・)」
一瞬、天界のことが頭に浮かんだ。24時間前はまだ皆と笑っていたというのに・・・・・・天界のみんなは無事だろうか?
『安心しな、私が用があるのは君たちだけ。天界にはもう手は出さないよ。』
"彼"はそう言っていたが、本当かどうかの確証はない。この目で確かめなければやはり安心できない。
噴水を見つけて天界に帰るという考えが浮かんだ・・・しかし、天界の噴水は確か壊れていたと思う。きちんとした確認はしていないが、あの時噴水から水が出ていた覚えがない。
「(この考えは無かったことにしよう・・・)」
何はともあれアルタイルは250年位は起きない・・・らしい。その間、彼を様々な危険から守らなければ。
ベガは1人で大切な人を守るために再び大きく、長い戦いを始める・・・・・・!



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空は青々としており、とても清々しかった。しかし、大きな傷を負ったその街に笑顔は無い。
「・・・ひでぇ有様だな」
太陽のような姿をしたソルは瓦礫と化した街を見て悲観した。たったの一日で、平和の日々が崩されたのだ。
フェイト・プロフェットが姿を消した日の翌日・・・神殿に『星の勇者十二隊』を閉じ込めていた扉の結界は夜明けとともに完全に解け、閉じ込められていた一行はようやく外に出ることができた。しかし、出てきてみたらすでにこの有様である。
そして、被害が大きかった噴水広場にソルはいた。
「すみません・・・俺が、俺がしっかりしていないばかりに・・・!!」
ソルの隣で蠍の尻尾を生やしたシャウラが顔を俯けていた。その顔は強く歯を噛みしめている。
「お前の星団は何をしていたんだ・・・?」
ソルが厳しい顔でシャウラを睨む。一体何をしていたのかと、その目が言っていた。シャウラは顔を上げずに答える。
「周辺のパトロールに・・・行っていたそうです」
シャウラが持っている星団は『ヒヤデス星団』で、天界で一番力のある『プレアデス星団』のライバル団だ。
「全員で周辺のパトロールに行ってて・・・」
ソルの顔が更に厳しくなる。
「どうして誰もここの異変に気付かなかったんだ!!?」
「・・・・・・」
ソルの怒号にシャウラは一瞬ビクッとしたが、責任はすべて自分にある・・・反論できる立場ではない。
ヒヤデス星団は『自主性と積極性』がモットーだ。星団員はほぼ自主的に行動していて、団長であるシャウラのやることはといえばその団員の抑止だ。自主的に動けばそれだけ自由で勝手なことをしでかす者も出てくる。そういう彼らを止めるためにシャウラは動いている。
しかし、実はシャウラやヒヤデス星団のせいではないのだ。フェイトはあらかじめ、この周辺に特殊な結界を張っていた。それは望んだ者以外を拒み、その者以外は自然にその場を避けてしまうようなものだ。つまり、どんなにこの噴水広場を目指そうと、いつの間にかまったく別の場所に向かってしまうのだ。
「ソル、怒鳴ったって事は解決しません。今は天界の復興が最優先です。」
エルミスがソルをなだめる。誰かを責めても状況が変わるわけではないのだ。
「んなことはわかってる・・・・・・すまんな」
ソルはシャウラに謝罪するが、シャウラは顔を上げなかった。どっちにしたって、責任は感じてしまう。
「とりあえず、10年後に備えて少しでも復興を目指そう。」
アースが近くの瓦礫を手に持つ。どんな作業だって最初は手近の物から済ませるものだ。
10年後、戻ってくる彼らの為にも・・・・・・



・・・続く!!
ベガ編も終わり、残すところは天界編です。
天界編が終わったら色々細かなところを書きます。


八日間連休七日目
今日も(ry