「希望の翼」 ♯一人

外に出たのは1人になりたかったから。
今日は色々なことがあった。といっても、兄の話を聞いてばかりだったが・・・・・・
『牛乳ねェ・・・何に使うんだよ?』
出かけるついでに母に買い物を頼まれ、アルタイルはテクテクと商店街へと歩を進めていた。
『アルタイル!』
『・・・あン?』
不意に声をかけられ、アルタイルはすぐに後ろを向き、構える。未知の存在の気配を感じ取ると本能的に身構えてしまう・・・これも戦士の性。
だが、相手の正体を知るとアルタイルは手を下げた。その正体は
『ベガか・・・』


『お前何で出歩いてんだよ、もう夜だぞ?』
『それはお互い様よ』
2人は並んで住宅街の道を歩いていた。
ん、何でコイツ付いて来てんだ?アルタイルの顔が変になる。
『(俺は牛乳買いに出て来ただけだよな?つか今は一人になりたいんだけど・・・)』
ホントに女子というモノがわからない、少しはこっちの意を汲んでほしい・・・。
『あのさ・・・』
アルタイルは顔だけベガの方を向き、口を開く。
『何故付いてくるんだ?』
『いいじゃない、あたし暇なの』
アルタイルの目がピクリと一瞬動いた。暇だから・・・たったそれだけの理由で付いてくる。何故?意味が分からない。結局何がしたいんだ?
『・・・すまんけど、一人にしてくんねぇか?』
『え、何で?』
『何でもだ・・・』
そういえば・・・何でベガが自分に構ってくるのか、未だに明確な理由がわからない。・・・何でだ、何で俺に構うんだ?
アルタイルはベガを置いてスタスタと行ってしまった。
『え、ねぇちょっと!?何かあったの?ねぇってば!!』



「アルタイルは"他人"に気づくべきだよ。人の話をちゃんと聞いてさ。本を読むことが全てじゃない、そして、本に書いてあることが全てじゃない。自分の周りからだって学べるものはたっくさんあるんだよ?」
『・・・・・・』
気付いたらアルタイルは走っていた。商店街を通り過ぎ、いつの間にか何もない広い公園に来ていた。
『ああ確かにそうだなデネブ・・・周りからも学べるものはたくさんある・・・本に書いてないこと以外にもたくさんある。けどよ・・・』
アルタイルは天を仰いだ。



『周りは・・・何も学ばねぇじゃねぇかよっ!!』



アルタイルは天に向かって叫んだ。
『俺のこと構ってくれるのは嬉しいさ!けどよ、それは度を過ぎれば鬱陶しいだけだ!確かに人から見れば俺は寂しい奴だよ!哀れな奴だよ!!そんな闇の中から救ってくれんのは嬉しいさ!』
一人で本を読んでいた自分に気づいてくれたベガ、自分に正しい道を示してくれているデネブ。その心遣いはとても嬉しい。嬉しくて暖かい。
『けどよ・・・・・・このままじゃ俺は他に紛れちまう・・・「他」という大きすぎる存在に飲まれちまう・・・』
思えば、今日は一日中誰かが彼の隣にいた。そして、ようやく一人になれた。帰れば家族がいる。育成所には教師がいてクラスメイトがいて・・・一人でいられる場所はない。
『・・・・・・俺、今までどんな顔してベガやデネブと話してたんだ?』
不意に、唐突に、突如としてそんなことが頭をよぎった。
『まさか、俺の言葉で誰かを傷つけたりしてないよな・・・・・・!?』
他人という存在に慣れていないアルタイルにとって、他人とコミュニケーションを取るのが難しかった。
昔から読書が好きだった。楽しくて、時には一日中本を読んでいた日もあった。食事も忘れ、寝るのも忘れ、外で遊びもせずに家の中でずっと本を読んでいた。だから、近所にも友達はできなかった。
恐らく、家族以外で誰かと話したのはベガが初めてだ。
『はは・・・なんだそれ』
アルタイルは俯き、もと来た道をふらふらと戻っていった。


牛乳を買い、家に戻った。道中には誰もいなかった。
ガチャリと玄関の戸を開き、リビングに牛乳を置くと母が礼を言ってきた。
無視した。
階段を上がり、自室の扉を開くと、ベッドにはまだデネブが座っていた。
『あ、どこ行ってたのさ?』
無視した。
机に向かい、本の詩織を挟んであるページを開いた。
『・・・・・・アルタイル?』
デネブはアルタイルの様子に少し戸惑ったが、しばらくすると部屋を出て階段を降りて行った。
アルタイルは扉の方に顔をやり、立ち上がった。



『アルタイルの様子が変なんだ、なにか知らない?』
『ん〜、確かに変だったわね・・・』
デネブと母は階段を上がり、アルタイルの部屋の前に来た。デネブがドアノブに手を伸ばし、回そうとしたがピクリとも動かなかった。どうやら鍵を閉めたようである。さすがのデネブも心配になってくる。
『アルタイル!どうしたのさ!?』
ガチャガチャとドアノブを回そうとするが、一向に開く気配が無い。
『・・・疲れて寝てるんでしょ?そっとしておいてあげなさい?』
母はそう言って下に降りて行ってしまった。一人残されたデネブもとりあえずそういうことにして自室に戻っていった。



翌日・・・
アルタイルはその日、朝になっても部屋から出てこなかった。




・・・続く!!
改心するかと思ったら状況は振り出しに・・・アルタイルに何があったのか!?




八日間連休一日目!!
雨だったし、とても暇でしたww