『モモ』其の玖 「雉岡、打ち明ける」

肌に突き刺すような追い風の助けもあってか先程よりは走るのが楽になった・・・しかしながら、それでも辛いことに変わりはなく、隼のスピードは依然落ち続けていた。
「俺ってこんなに体力無かったっけ・・・?」
自分でも驚くくらい体力が落ちているらしい・・・一体どのくらい部活に顔を出していなかったんだか。
「少しは理解できましたか?如何に自分が愚かで愚鈍で阿房で間抜けでとんまで虚仮だと・・・」
「ああ、よぉぉくわかったね・・・お前が如何に五月蠅くて鬱陶しくて喧しくて諄くて騒がしくて騒々しくて面倒で煩わしくて煩雑でご意見番だってことがな・・・!!」
「あら・・・難しい言葉ばかりで何を仰っているのか皆目見当がつきませんわ」
「そうかそうか、言語能力に乏しいのか・・・そいつはすまなかったな、国語の時間寝てるもんな」
「寝てませんわ!むしろあなたの方が寝ているでしょうに!」
隼と五月の口喧嘩がエスカレートしていくにつれてタカとモモが乗っている自転車の速度がどんどん上がっていった。その理由は言うまでもないが、タカの腹痛が始まったからだ。最早アレルギー反応と言っても過言ではないこの症状は本人ではどうしようもない・・・とにかく二人の喧嘩の様子が分からなくなるまで離れるしか症状を抑える手が無いのだ。
「急に速度上がったけど・・・後ろの二人が追いついてないよ?」
速度の突然の変化にモモは戸惑いを隠せなかったが、タカも自転車を漕いでいるためか腹痛を堪えるために神経をそちらに集中しているためかはわからないが汗だくになっていた。
「川本さん悪いけど・・・二人の口喧嘩止めてくれる?僕、あれを見聞きしてるとお腹痛くなるんだ・・・」
「え、そうだったの!?わかった」
タカの事情を初めて知ったモモは後ろで言い合いしている隼と五月を見た。先程の仲は遙か彼方・・・隼と五月がギャーギャー言い合っている。モモはその様子を見るやいなやため息をついた。
「何かもう・・・はぁ、しょうがない2人だなぁ・・・コラァ!雉岡君が困ってるでしょ!!」
モモの仲裁に2人は一先ず静かになる・・・が、やがて隼が反論を始めた。
「俺に当たんなよ!コイツが挑発してきやがったんだぞ!?」
「あなたこそ余計な事言ったじゃありませんの!」
「つかなんだよ『愚かで愚鈍』って・・・結局意味は同じじゃねぇか!?」
「あなたこそ『騒がしくて騒々しい』って、同じじゃありませんの!?」
「ああもう、うるさいうるさい!!喧嘩するなら余所でしてよ!」
「川本さん、それじゃ本末転倒・・・」
「つかモモ、少しは走れよ!!そんなんだから発育が」
「宇宙の彼方まで飛ばされちまえっ!!もしくはブラックホールに吸い込まれてこい!」
結果的に口喧嘩にモモが加わった形になってしまい、タカへの圧力は更に重くのしかかる。この口喧嘩、もう仲裁できる者はこの場にいない・・・タカの腹痛は悪化するばかりであった。
その喧騒は止まらぬまま、四人は橋に差し掛かった。この橋は都に通じているため車通りも少なくはない。そのおかげか車の騒音などで三人の口喧嘩はほぼ聞こえなくなり、タカの腹痛も和らぐ。
先程は追い風で進むのが楽だったが、方角がほぼ90°変わったため今度は横風で運転が不安定になり始めた。倒れてしまうほどの強風というわけではないが、油断はできない。
「川本さん、念のためここは歩こうか?ちょっと危ないし」
「え・・・あ、うん。わかった」
モモは荷台から降り、地に足をつけると、その瞬間、後ろにパトカーが見えた。そのままタカとモモの横を素通りしたところから、見つかったわけではなく、どうやらギリギリで免れたようだ。
「・・・危なかったね」
「橋の上はデンジャーゾーンね・・・」
よくわからない発言をしたモモだが、口喧嘩からは脱したようで・・・しかし例の二人は相も変わらず口喧嘩の真っ只中・・・モモは二人を止めるのを諦めたようだが、それではタカの腹痛も治りはしないのである。しかし2人の喧騒は自動車などの騒音にほとんどかき消されているため、タカの耳にはほとんど入らなかった。
自動車の騒音や横風を受けながら四人は橋を渡り切り、対岸までたどり着いた。
しかし、まだまだ道のりは長い。



続く・・・
犬猿の仲は戻り、最悪のムードの中、遂に対岸へ・・・!!
誰が主人公とか気にすんなしw



色々試してみなきゃわからないよね、絵って・・・というわけでこれからは頻繁に色々な絵を貼ると思いますので宜しく♭