『モモ』其の弐拾 「一行、帰還する」

仕掛けは子供だまし、パネルのようなものに鬼の絵がプリントされており、鬼の腹部には纏当ての的のような模様があった。パネルの前で二、三人の子供がゴムボールを腹の中心目がけて投げている。正直こんな元気な子供に混じってバカ正直にボールを投げる勇気は無い。そう、こんな子供だましに中学二年生が乗っかる義務なんて無いのだ、決して!!しかし・・・



「・・・・・・ん?」
隼はいつの間にかゴムボールを手に持ち、パネルの前に立っていた。
「あ・・・れぇぇぇえ!?」
「犬井く〜ん、頑張りなよ〜」
ゴムボールが当たらないような安全圏でタカがさわやかな笑顔をこちらに向けていた。しかも節分用の豆を小脇に抱えて・・・
「・・・待て、おかしい!どう考えても時が飛んでやがる!?」
さっきまで子供が二、三人ほど的を狙っていたハズ・・・しかしタカが抱えている豆はこの的当ての賞品であることは間違いない。どいうわけかタカが的当てをしたという記憶が隼にはまったく無いのだ。十分くらいの記憶が綺麗サッパリすっ飛んでいた。
「タカ!何がどうなったんだこりゃ!?」
「これがああなったんだよ」
そう言いつつもタカは身振りの一つもしない。相も変わらずさわやかな笑顔を向けながら、タカは面白おかしそうに豆を抱えている。その隣ではモモが半分かったるそうに荷物を抱えており、更にその隣で五月は興味無さげな感じで携帯をいじっている。
何やら訳がわからないがタカとレジの店員と子供とその親の目が痛いので隼は若干控えめにゴムボールを投げた。ポスンという音と共にパネルは少しずれた。
「・・・・・・どう判定すんのこれ」
どうやら鬼のど真ん中に当てれば良いのだろうが、中心に当たったのかどうかの判定は一体どうするのだろうか。店員が見てるわけでもないし、自分で「わーい当たったー」と喜ぶのもおかしい。隼はまたもや混乱し始め、辺りは完全に白け始めた。
店員や子供やその親の視線が痛い、穴が開きそうである。
「タ・・・タカサーン・・・」
耐え切れなくなった隼はタカに協力を仰いでみた。すると、
「基本子供のルールだから自己判定だよー」
タカは屈託のない笑顔でそう答えたのである。
自己判定なら簡単に「当たった」と喜べる・・・しかしたまに腹黒な裏タカはそう甘くなかった。
「でも今のは微妙に外れてたかな・・・五ミリくらい」
「何そのクソシビアな判定は!?」
その判定は誤差で当たりでも構わないはずだ。しかしタカに弱みを握られている以上、反抗はできない。隼は仕方なく残りのボールで誤差も発生しないど真ん中を狙うことにした・・・残るボールの数は四個である。
二球目・・・(タカ曰く)上に三ミリずれた。
三級目・・・(タカ曰く)左に二センチそれた。
四球目・・・(タカ曰く)下に四ミリずれた。
「・・・・・・マダダメデスカ?」
いい加減隼もイライラしてきた。タカの判定とはいえ、いくらなんでもシビアすぎる。
「だって犬井君やる気無いんだもん」
「半ば強制的にやらされて『よーしやるぞー』って言える方がおかしいけど、さすがにアンダースローはヒドイよ」
「負け犬は吠えないでくれます?うるさいので」
遂には三人から避難の嵐である。
「あーあーはいはい」
その言葉で隼は自棄になり、少し全身から脱力した。すると、小学生のころのある感覚が蘇ってくる。実は隼は小学生のころ野球をやっていたのだ・・・!!というのは後付設定だが気にしてはならない。
隼は視線を鬼の腹のど真ん中に集中し、ゆっくりとボールを上に構えた。少しすると、隼はボールを思い切り投げつけた。ボールは見事、鬼のど真ん中に当たり、パネルが倒れ始める・・・前にパネルに当たったゴムボールが跳ね返ってきて隼の顔面にクリティカルヒット!!
すると店中から「おぉ・・・!」という歓声が拍手と共に沸き起こった。ここまでやられるとさすがのタカも認めざるを得ない。
「何か速すぎてよく見えなかったから正直よくわかんなかったけど顔面クリティカルヒットが面白かったから良し!!」
「おい、それおかしいだろ」
隼はヒリヒリする頬を摩りながらタカを睨んだ。しかしこんな子供だましともおさらば、ようやく帰れる。
「んじゃあ帰ろっか!」
モモがそう切り出し、出口に向かうと五月も携帯を閉じて出口に向かって行った。残されたのは男子の2人。
「まぁ、部活については反省するよ。きっぱりやめる」
「そう・・・はっきりするのはいいことだよね。ほら、豆」
「あぁ、うん。正直豆っつってもなぁ・・・」
正直いらないのだが、貰えるものは貰うことにする。
「んじゃ、帰ろう?」
「うっし」
隼はそう言うと立ち上がる。タカも自転車の鍵をポケットから取り出そうとし、そこでようやく思い出した。
「・・・・・・そうだった」
タカは笑顔のまま汗を滝のように流し始めた。そう、自転車はここまでの大冒険の末、ご臨終したのである。
「雉岡くーん、自転車ぁ!」
モモがよく通る声で戻ってきた。
「あ、うん・・・・・・」



この後、四人で持久走をして帰ったのは言うまでもない。
ついでに、タカが親に怒られたことも、言うまでもない。





はい、何か途中から自分でも何書いてるのかわからなくなりました・・・w
しかし『モモ』もこれにて終わりです。オチが酷いです。最悪です。
明日からまた学校です。早く寝ます。では・・・